アレックス・ハッチンソン『良いトレーニング、無駄なトレーニング』

 トレーニング方法ではなくて、トレーニング理論に関する本。現在科学的に分かっていることと、まだよく分かっていないことをはっきり区別して書かれているので非常に読みやすい。特に根拠がないのに断言する過大広告とは全然別のものだ。
 中身は一問一答形式で書かれている。たとえば、
有酸素運動と筋トレ、どちらを先にすればいいか?
 持久力と筋肥大でより重要視するほうを先に行う。両方を同時に鍛えることはできず、先に行ったほうのスイッチが入る。ということは、ボルダリングジムまで自転車で行くと、筋肥大はし難くなってしまうということか。悩ましい

・コンプレッションウェアの効果は?
 激しい運動後の筋肉の回復を早めるという研究結果はあるが、パワーや持久力の向上にはまだ明らかになっていない点が多い。寝るときだけ履くのが一番効率がよさそう。サポートタイツとはまた別なんだろうか。サポートに頼りすぎると筋肉が弱くなりそうではある。

・固い地面を走るとケガをしやすくなる?
 滑らかで凹凸の少ない場所でのランニングは足への負担が大きくなる。これは常に同じような負荷がかかるからということらしい。ある程度不整地のほうが負担が変わるので怪我はし難くなる。ただし荒れすぎていると捻挫のリスクは高まる。

・筋肉を付けるためにタンパク質をどれくらい摂取するべきか?
 体重1㎏に対して1.3g程度あれば十分。北米に在住する一般的な人は、毎日の食事から筋力トレーニングで筋肉を発達させるのに十分すぎるタンパク質を摂取できる。取りすぎても特にデメリットはないが、炭水化物の摂取が妨げられる。

・運動後のストレッチで翌日の筋肉痛を予防できるか?
 効果なし。これは少し意外だったけど、激しく損傷した部位はストレッチしないほうがいいとも聞く。柔軟性を高める効果はある。

・温パックや温風呂は身体の痛みを和らげるか?
 身体を温めるのは運動後よりも運動前のほうがいい。ケガの直後には温めないこと。それ以外は十分なデータはないが、温めることによるデメリットはない。リラックス効果はあるかもしれない。

 体重マネジメントの章はダイエットが好きな日本人向け。でも「運動では痩せにくいのではありません。どのような方法でも痩せるのは難しいのです」と身も蓋もないことが書いてあった。他にも疲労を感じるのは脳の影響が大きいとか、アルコールは翌日のトレーニングに影響するかとか、興味深いことがたくさん書いてあるので、一読の価値はある。
 これを読むと人間の身体についてはまだ分からないことだらけなんだなあと思う。自分なりのやり方やペースがあるなら、それほど細かいことまで気にしなくてもいいのではという気になる。ここに書かれている「新常識」も10年後には全く変わっているかもしれない。はっきりしているのはたとえ短時間でも運動をすることは健康にいい影響を与えるということ、具体的な目標をもって運動に取り組んだほうがいいこと、常に新しいことに挑戦したほうがいいことくらいだ。