宮下志郎『本の都市リヨン』

    ルネサンス期に金融・出版都市として栄えたフランスの都市リヨン。ルネサンス期のフランス社会は、パリ・リヨンの二都市を中心として回っていた。つまりフランス・ルネサンスとは、いわばこうした二つの焦点を持つ「楕円形の肖像」として描かれるべき性質のものにちがいない。そしてこの二つの焦点が、どうして一つの中心になるにいたったのか、それを明らかにしてみたい。


 この本では出版の歴史を中心として、活字本が登場した15世紀後半から、リヨンの出版業が衰退していく16世紀末における、当時の印刷職人や商人、聖職者、市民たちの社会的・経済的な状況を描き出している。

  
   出版業とはその誕生の時から、一面ではきわめて資本主義的な要素が色濃いものでもあったのだ。

 16世紀のリヨンは、為替市場の中心として、年に四度の大市を開催していた。そこでは多くの資本や商品や情報が交換され、リヨンは国際金融都市としての地位を急速に高めていく。書物もまたそこで交換されるような新商品として頭角を現していく。異なる価値が交換され、さまざまな情報が交換される大市の都市こそ、出版業にはうってつけの場であった。


 また書籍が宗教改革に果たした役割も大きいものだった。リヨンは一時期
ユグノープロテスタント)の拠点となるが、結局はカトリックに飲み込まれてしまう。さらにペストなどの流行もあり、リヨンは衰退していく。そして絶対王政を経て、フランスはパリ中心の国家になる。


 最近は電子書籍などが台頭してきて、紙の書物は時代遅れとなるときが、もしかしたらくるのかもしれない。そんなときに書物の歴史を振り返ってみるのもおもしろいものだ。

 リヨンはラブレーの『ガルガンチュア』や『パンタグリュエル』が出版された都市でもある。当時の様子を知ることは、これらの作品を読むときに大いに参考になるだろう。


 俯瞰図にページ数を併記してくれればもっとみやすいのに。あと人名覚えるのが大変だ。