モーム『お菓子とビール』

  留守をしているときに電話があり、ご帰宅後すぐお電話ください、大事
 な用件なのでという伝言があった場合大事なのは先方のことで、こちらに
 とってではないことが多い。贈物をするとか、親切な行為をしようという
 場合だと、人はあまり焦らないものらしい。

 『お菓子とビール』はこんな書き出しで始まっている。大学入試問題でもよく取り上げられたりしていたらしい。モームといえば、『月と六ペンス』や『人間の絆』を読んだことがあり、そのそちらも鬼気迫るような迫力があったのだが、本作は気楽に読める作品だった。それは題名でも示されている。お菓子とビールというのは「人生を楽しくするもの」という意味であるからだ。解説読むまで知らなかったけど。

 語り手にとって、人生を楽しくしてくれたのはロウジーの存在だったのだろう。ロウジーは魅力的な女性像として描かれている。少年の頃はマジメでどこか嫌悪感をもっていたアシェンデンが、大人になってからロウジーの虜になってしまうのが面白い。アシェンデンが大人になったころは、道徳的な厳しさが緩んだ時代でもあったようだ。

 モームらしい皮肉もたっぷり詰まっていて、非常に面白く読めた。ロウジーは色情狂にしか見えないが。